薄曇りの空のようなやわらかな薄鼠色の地に、満開の桜の花の下、優美に流れるせせらぎの音も心地よい曲水の宴を思わせる歌会の情景が染め出された訪問着です。
瀟洒にそびえる塔を背景に、薄紅の桜はらりはらりと舞うなか優雅に催される歌会が描き出され、緑深い松とやわらかな薄紅の桜の木々にさやさやと流れる小川へと続く裾模様がししみじみと美しく、衿から肩、袖にかけて霞にけぶるまろやかな遠山が幻想的に浮かび上がる、遠景から近景への見事な描写に見惚れる、平安の歌物語の世界に迷い込んだような夢見心地を楽しめる特別な一枚です。
「まつとし聞かば 今帰り来む」の歌をくちずさみたくなるような八掛にそっと描かれた松も小粋です。
さらりとした手触りの、細やかなシボのでた、マットで上品なツヤ感のあるしなやかな生地で正絹縮緬と思われます。
「峰陵」の銘が入っており、桜を描く匠として、また濡れがき友禅で名高い高橋峰陵の作かと思われます。
為書き(名入れ)がされています。
エリは広衿です。