つるばみの実で深く染め上げたようなチャコールブラックに、風に揺れるような一面の羊歯の葉と、ドングリをついばむ鶉(ウズラ)の姿が描き出された正絹付け下げ着物です。
ころんと丸い姿も愛らしいウズラは、御吉兆(ゴキッチョー)と聞こえる鳴き声から縁起の良い鳥とされており、身にまとう人に幸運を運んできてくれそうです。
秋草の帯とあわせて、「夕されば野辺の秋風身にしみて うづら鳴くなり 深草の里」という藤原俊成の和歌に思いをはせたり、桐文様の帯をあわせて、「桐の木に、鶉鳴くなる、塀の内」という松尾芭蕉の一句を口ずさんでみたくなる、物語が広がる一枚です。
付け下げのような余白を生かしたすっきりとしたデザインですが、衿にも柄が描かれており、訪問着として作られたものかもしれません。おめかししたお出かけ着からドレスアップスタイル、フォーマルまで幅広く活躍してくれそうです。
「克峯」の落款と、「初子」という記名がはいっています。
さらりとした手触りの、ごく細かなシボのでたしなやかな生地で、正絹と思われます。
エリは広衿です。